これは私が、何の気の迷いだったか、生涯に1度だけ男性のモノをフェラチオしてしまった時の話です。当時既に結婚していて、それまでもそれからも、同じような衝動にも行為にも縁なく過ごしてきましたので、「危険」とまでは言えないまでも、そうした不思議で不安を伴う体験への遭遇はそれっきりになるものと思われます。



その頃私は、近所の区民プールに週1、2ペースで通っていて、おそらくは生まれて初めて自分の身体の「肉体美性」というべきものに意識を向け始めた時期でした。同僚や少数の個人的な友人などと結婚における性生活について話している内に、自分が妻(あるいは若い女性社員や見ず知らずの女性たち)の肉体的な魅力については意識的であるのに、「自分」の肉体的、すなわち性的な魅力云々についてはほぼ全く無自覚であるのに思い至って、「肉体改造」みたいなことに開眼した頃だったのです。実際、その当時の私の身体はといえば、平均を大きく離れて太っていたり痩せていたりというほどではないものの、さりとて見ず知らずの何の利害関係もない女性から理由なく好意を寄せられるような魅力は何にも持っていない、といった感じだったのです。



私は、「中年男」、いやさ「男」の平均的な例にたがわず、プールでたまたま時間的にかち合うだけの女性たちの、人によってはものすごく美しく性欲を掻きたてる肉体美や水着姿にそれなりのスケベ心を抱きながらも、そこは公共の場の社会人とばかりに、そ知らぬ顔で熱心に水泳に精出すていを取っていました。いや、そのフリをしているだけというよりは、かなり本気で水泳と肉体改造に取り組んでいたのです — 中学生時の体育の授業以来ロクに水泳なんかやらずに生きてきた中年男にしては。



始めて半年かそこら経って、自分の身体が少しは引き締まり、かつ筋肉の線も目立つようになったかなと思えるようになった時期、いずれ劣らず美しい身体を持つ監視員の女の子たちにも臆せず挨拶や会釈を返せるようになった時期、私はある青年の姿を我知らずよく目で追っている自分に気付きました。監視員にせよ一般の「お客さん」たちにせよ、身体をぎりぎり申し訳程度に覆うような競泳用水着を愛用しているスイマーたちというのは、男性女性問わず、見る者を軽くどぎまぎさせるような性的魅力を知ってか知らずか放っているものですが、時折見かけるその青年は、まさにそういう女性スイマーたちの秘かな視線をも独り占めにしているような、そのプールでの性的強者でした。



明るいブルーやオレンジ、時には白の競泳用ビキニを、筋肉質な尻と見るからにでかいと分かるペニスをひけらかすようにぎりぎりに着こなしているその青年は、私にとってはどんなに努力しても敵いそうにない強い雄ボスの強いセックスの象徴のような男神でした。本来ならライヴァルになってもおかしくない男の私がそう感じるのですから、女性たちはどんなふうに彼を見ていることか。彼の泳ぐ姿、彼が顔見知りらしき女性たちと挨拶や笑顔や視線を交わしている姿 — 私は心の半分で「あんな男だったら自分もどれだけセックスに明け暮れる日々を送れることか」と夢想すると同時に、半分で彼の肉体やセックスそのものに、いつのまにか焦がれていたのかもしれません。



そのきっかけはひょんなことからでした。過去に2度か3度かそこら、たまたま上がり時に彼と更衣室で居合わせたことがあったのですが、その時と同様に私は、無頓着に全裸になって着替えをする彼の見事な大臀筋や勃起時の私のより大きいぶらりと垂れたペニスを、さりげなく盗み見ていたのです。「おじさんはソッチ系の人?」ぎくっとした私の内心を透かし見ているように軽くからかいが混じった口調で、上半身裸でジーンズを穿き終えた彼が3mほど前方に寄ってきていました。「どっちでもいいけど、コレ欲しいって人には提供してるよ。タダじゃないけど」ぽんぽんとジーンズの前の膨らみを叩きながら彼は言ったのでした。



外の公園内の少し離れたところにある多目的トイレで、2万円を前払いして、私は便座に腰掛けていました。リクエストに応えてTシャツを脱いでくれた彼がその前方に仁王立ちして。若干震える私の手が彼のジーンズの前ボタンを外していくと、下着を着けていない彼の30度ほどに上を向いた巨大なペニスがひょこんと現れました。自分も激しく勃起しているのを感じながら、私はその惚れ惚れするようなペニスを口に含み、両手では硬く割れた腹筋をまさぐっていました。



「優しくされるのと乱暴にされるの、どっちがいい?」7、8分ほど無言で夢中になって彼のペニスをしゃぶっていた私に彼が尋ねました。私は一瞬意味を捉えそこねましたが、すぐに彼がフィニッシュ時の扱われ方についてリクエストを聞いてくれているのだと思い当たりました。「乱暴に、のほうで」と私は答えました。



私の頭を両手で抱えこむように掴んで、彼は激しく私の口に長く速いストロークでペニスを抜き差ししました。ああっ、ううっと獣の唸るような声を洩らしながら彼は射精しました。何分初めての経験ということもあり、また彼の射精が長続きすることもあって、私は顔や髪や服に大量の精液を浴びてしまいましたが、頭の奥のどこかが痺れたような未体験の不思議な幸福感と充足感でしばらくぼうっと座っていました — いつのまにかに彼が姿を消した後も。



その後、私はそのプールに通うのをやめてしまいました。もちろん、「その先」が怖かったからです。以降はかなり離れた民間のジムで、しかもプールを使うのは避けて、肉体改造は続けましたが。おかげで妻のほうから夜求められることも増えましたが、今でもフェラチオをしてもらう段になると、奇妙な罪悪感とどこか甘美な緊迫感を感じて、そそくさとやめてもらう自分がいたりします。